北横岳→双子山→蓼科山の旅

早朝になってわたしは雄池の岩場まで降りていった。
手に持っていたポリ容器で透き通った水をくみ上げた。
これが飲料水であることがまだ信じられない。
池の水をすくって飲むという憧れが現実になったとき、まるでこの世のものではない神秘の空間に包まれた心持になった。























蓼科山の旅

(2010年8月12日~15日)










旅程

8月12日  八千穂駅→白駒池
8月13日  白駒池→北横岳→双子池
8月14日  双子池→双子山→蓼科山→蓼科牧場










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その年の夏、わたしは二度目の佐久平駅に降りた。

やれやれ、また長野か。

わたしはひとりごちた。

7月の連休に八ヶ岳を訪れている。今回は蓼科山が目当てであった。

一回で八ヶ岳と蓼科山を縦走しようというのが最初の計画だった。

しかしそれは馬鹿げた計画であることが八ヶ岳出発直前になって露呈した。

そういう次第で、残りの蓼科山にやってきた。



佐久平駅の一階の軽食店は便利である。

わたしは決まってここで飯を食う。

おそらくこの先もずっとそうすると思う。












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今、正月の休みにこれを書いている。

一年を振り返ってみてもイベント的な出来事はなく、やったことは三つしかない。

一が八ヶ岳に行ったこと、二が蓼科山に行ったこと、残りの三つ目は仕事をしていたこと。

つまり、仕事の束の間の休息を狙って山に行ったことになる。












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早朝に関東を発ち、昼ごろ佐久平に着いた。

佐久平から小海線を乗り継ぎ、ここ八千穂駅まで辿り着いた。

ここからは白駒池行きのバスに乗る。

乗客は10人ぐらいいた。

小雨がパラパラと舞っていたが傘を差さずにバスを待った。

山麓部を電車やバスでひっそりと移動するのも風情があっていい。










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バスは白駒池入口でわたしを振り落とし、無機質に走り去っていった。

今回の目的地である。

わたしは唇の端を少しゆがませながら、地図とコンパスで方角を確認する作業に入った。












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入山の時というのはいつだって緊張が走る。

ここで落ち着くのが最も重要だ。

山を始めたばかりの頃は焦って方角が不確かなまま入山することもあった。

いまではすっかり慎重になったが、それでも慣れないものである。

この心地よい緊張を楽しむことにしている。










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白駒池の方角は蓼科山、北横岳方面とは逆方向である。

その目的はただ一つ、青苔荘のテント場にテントを張ることだった。

時刻は16時ごろだった。

風が強く、パラパラと霧が舞っていた。



山小屋の戸をガラガラと開けた。

山小屋というよりは民家に入るような面持ちになった。

テントの予約を済ませてオッチャンとカウンター越しに話をする。

昨日はテント客が一人あったという。

この日はわたし一人であった。


青苔荘テント場の一等地に案内して貰う。

雨は下に流れるので高い所が一等地だという。









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寝場所が確保できたので下に降りていって池の畔に近づいた。

辺りは霧に包まれて、池のスケールはわからない。

幻想的な想像力をかき立てる。


ボート乗り場に二艘のボートがロープに繋がれていた。

小屋の蛇口をひねると白駒池の最深部から汲み上げた水が出てくる。

飲料水としては十分であったが美味いものではない。

なんていうか、こう、池の水を飲んでるやな感じになる。



夜の上空は風が強かったがテントを揺らすことはなかった。

標高2,000mの高地だが、凍えることはなかった。

わりと快適な方だったと思うがあの時の記憶が既に薄れている。










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朝がやってきた。

テントを撤収して池の畔を見に行く。

霧で見えなかった池が現われた。

このギャップがなんだか面白い。あるいは間抜けである。











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この日は麦草峠を越えて北横岳を目指す。

白駒池で遊んでいる場合ではない。

森の中に続く小道を抜けるとヒュッテ麦草の小屋が見えてきて車道を横切る。














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一人で知らない場所を歩くと新しい気分になれる。

これだけのために山に来ていると言っても過言ではない。(言わなくてもいい)










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この夏、わたしは休日になると家で倒れて過ごすようになっていた。

一人で抱えきれないほどの情報量を頭の中の小さなメモリーに叩き込んだからだ。

恐ろしいことだがやってしまってからでは遅かった。

メモリー消去ボタンで簡単に元に戻せないのである。

こうして山に来たのはメモリー消去の可能性にかけたからだ。









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開けた草原に出た。

林の方で何かがガサガサ動いた。

鹿がかけて行ったのだろう。

気にせず前に進む。












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ここから先は大変歩きにくい道であった。

石の上を渡るように歩いていると、やがて面倒になり横にそれた道を木々の間を縫って歩くようになる。

五辻方面へ方角が90度変わるゆるい登りになり、こちらは完全に岩の上を渡り歩かされる。













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五辻が近くなると段々と歩きやすい登り道になる。

救われた気分になる。










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五辻手前に休息所があったので当然休んだ。

レモンパンみたいなものを食べた記憶がある。

写真を見ると、あのときここを歩いたんだなって、思い出す。











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また歩きたい。

こういう懐かしい感じのする道を一人で歩きたい。

そのためには会社を辞めてもいい。










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そろそろ歩き疲れてくるころ、木道が突如現われる。

結構長い木道であった。

わたしは救われた。










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空は曇りだが下界は見通しが利く。

ガイドブックにも乗っていた展望台から写真を撮った。












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木道が続いていた。

ここを一人で歩いていると、無限に続いている天国への階段を登っているみたいな錯角を覚える。

なんか心地よくなってくる。そういう記憶が残っている。









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漫画日本昔話に出てくるような風景を思い出す。









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ひっそりとした一人旅が終わり人ごみが見えてきた。

ピタラスロープウェイ駅の前は坪庭という遊歩道になっていて、気軽にロープウェイで来た人達が散策していた。

北横岳は霧の中で見えないが、それでも登山する人は結構いた。












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自然が作り出した庭のような場所が売りである。

あまり面白くはないと思う。












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なんのためらいもなく北横岳の登山道に入る。

山を越えて双子池まで行かなければ今晩の寝場所がないからである。











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坪庭から北横岳までは思ったほど難しくはない。

晴れていても面白いとは思わないが、北横岳からの見る蓼科山は見ておきたかった。

それだけが残念だった。


ガイドブックの写真で見た北横岳の山頂は大変居心地が良さそうで楽しみであった。

それを壊したのは曇り空だ。


北横岳は南峰と北峰の二つがある。

上の写真は南峰である。










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南峰から北峰までは僅かであった。

岩に座って休み、写真を撮った。

風が結構強かった。

こんな状況でも山頂という場所は特別な気分にさせてくれるのは確かだ。

沈んだ心ではなく、明らかに上向きの心持になる。

こういうことをもっとやらなくてはダメだと思う。

今まではただ意味もなく登っていたかもしれない。

でもそれはダメだ。向上して一皮向けなくてはならない。

山頂という場所はそういう場所だと思う。


食べ物や音楽や本と同じように、たくさんのエネルギーを貰わなくてはならない。




(続く)

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